いまさら聞けない!不動産投資で相続税対策ができる理由とその計算方法
2015年の相続税改正により、相続税対策として不動産投資が盛んに行われるようになったと言われますが、なぜ不動産投資で相続税対策になるのでしょうか?
それは、「時価額と相続税評価額の差」を活用した節税対策ができるからです。
例えば、現金を相続する場合は、1円=1円で評価されます。1億円の相続財産がすべて現金の場合、1億円に相続税が課税されます。
一方で、不動産を相続する場合、時価ではなく、「建物は固定資産評価額」、「土地は路線価」で評価されます。
例えば、土地や建物などの不動産を時価で1億円相当所有していた場合、相続時において、その不動産は時価額ではなく、土地は路線価、建物は固定資産税評価額などで計算した金額に対して課税されるのです。
不動産は時価と比較し、概ね50%以下の相続税評価額になるケースもあり、この評価の差(評価額の圧縮効果)を活用し、金融資産を多く持っている方、不動産を多く所有する方などが不動産投資や土地の活用により、相続税の節税対策を行っているのです。
つまり、1億円の現金を活用し、不動産投資を行うことで、5,000万円以下の相続税評価額となり、その分、相続税が節税できるのです。
さらに、不動産投資は相続税を節税するだけではなく、毎月の家賃収入を得ることができます。
これが不動産投資による相続税対策の仕組みです。
不動産(土地・建物)の相続税評価額
不動産投資をすれば、必ず相続税の節税対策になる訳ではありません。時価と相続税評価額に差があることが必要です。
実際、時価と相続税評価額が同じくらいの物件も存在します。
場合により、相続税評価額の方が高い場合もあります。
そのため、相続税対策として不動産投資を行う場合、物件選びにも注意が必要です。
次に、土地・建物それぞれの相続税評価額の目安をチェックするための方法を解説します。
1.土地の相続税評価額
土地は、毎年公表される国税庁が定めた路線価(土地1平方メートル当たりの単価)により評価されます。
毎年、国土交通省より公表される公示地価の約80%相当が概ね路線価の目安になりますが、正式には、国税庁のホームページで確認することができます。
※ 全国の路線価図はこちら(www.rosenka.nta.go.jp/)
土地の形状や接道状況などにより、様々な加算・低減等がありますが、概ねの目安として、土地の相続税評価額の計算は以下の通りです。
土地の面積(平方メートル)×路線価=土地の相続税評価額
さらに、アパート・マンションなどの賃貸物件の場合、次のように貸家建付地として評価減されます。
借地権割合×借家権割合(30%)=貸家建付地評価減
この借地権割合は路線価図に示されており、概ね住宅地の場合は60%とされていますので、
借地権割合60%×借家権割合30%=18%
となります。つまり、18%土地の評価を低くすることができるのです。
例えば、路線価による相続税評価が5,000万円の土地の場合、賃貸アパート・マンションなどの土地として利用していれば、相続税評価額は以下の通りです。
「5,000万円×0.82=4,100万円」
2.建物の相続税評価額
建物の評価額は、固定資産課税台帳に記載している固定資産税評価額により評価します。
新築の場合、概ね建築費用の60~70%程度が目安となります。
例えば、建築費用が5,000万円の建物の場合、固定資産税評価額は、以下の通りです。
5,000万円 × 60% = 3,000万円
さらに、アパート・マンションなどの賃貸物件は借家権割合(30%)相当が評価減されます。
固定資産税評価額 × 70%(30%減)
先ほどの、建築費用が5,000万円の建物は、さらに30%評価減することが可能なので、固定資産税評価額は以下の通りです。
固定資産税評価額 3,000万円 × 70% = 2,100万円
行き過ぎた節税対策には注意
実勢価格と相続税評価額の差が著しく大きいタワーマンションを活用し、富裕層を中心とした相続税の節税対策(いわゆる「タワマン節税」)が流行していました。
この実勢価格より大幅に低い路線価に基づいた相続財産の評価が適切なのかが争われた訴訟があり、令和4(2022)年4月19日、最高裁で、国税側の勝訴が確定となりました。
このように、行き過ぎた節税目的での対策は認められない可能性もあるため、注意しましょう。
相続税の計算方法とは?
実際に相続が発生した際の相続税申告は、専門の税理士に依頼するのが一番リスクも少なく、余計な税金を納税しなくても済みます。
しかし、財産を所有している方は、「相続税がかかる?」「相続税がいくらになる?」などという心配があるのではないでしょうか。
財産の総額と法定相続人の人数で、おおよその相続税が把握でき、実際に相続税の納税が必要なのか否か、対策が必要なのか否かを把握することができます。
相続税の税率や計算方法について、大まかなポイントを簡単に解説しますので、相続対策の事前準備として参考にしてください。
1.相続財産の評価額を算出
相続税を計算するときは、亡くなった夫の財産について、相続税の課税対象となる財産の価格(相続税評価額)を算出します。
現金、株式、不動産(土地・建物)などの財産は当然に課税対象です。(墓地や仏壇・仏具といった祭祀関係の財産などは非課税です。)
また、生前贈与財産(相続の開始3年前までに亡くなった人(被相続人)から受けた贈与財産や、相続時精算課税制度の適用を受けた贈与財産。)や、死亡保険金や死亡退職金などのみなし相続財産などがあります。
一方で、借入などのマイナス財産や葬式費用は相続財産から引くことができます。
以上をまとめると、相続税評価額の合計は、
+ 「現金、株式、不動産などの財産」
+ 「生前贈与財産」
+ 「みなし相続財産」
- 「借入などのマイナス財産」
- 「葬式費用」など
で算出します。
2.基礎控除の計算
相続財産すべてに対して相続税が課税されるのではなく、一定の非課税枠が設けられており、これを「基礎控除」といいます。
基礎控除の計算方法は、
- 基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
夫婦、子ども2人(長男・長女)の4人家族で、夫が亡くなった場合では、
- 3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
となり、夫の財産(相続税評価額の合計)が4,800万円以下であれば、相続税はかかりません。
3.相続税の算出
先ほどのケース(夫婦、子ども2人(長男・長女)の4人家族で、夫が亡くなった場合)で計算してみましょう。
①相続税課税価格を算出する
夫の財産が3億円相当(相続税評価額の合計)あったとすると、相続税課税価格は、
- 財産3億円 - 基礎控除4,800万円 = 25,200万円
となります。
②相続税課税価格を法定相続分で分ける
- 妻:25,200万円 × 1/2 = 12,600万円
- 長男:25,200万円 × 1/4 = 6,300万円
- 長女:25,200万円 × 1/4 = 6,300万円
【法定相続人とは】
民法で定められた相続人を「法定相続人」といいます。
- 第一順位:配偶者と直系卑属(子ども=長男、次男、三男、長女、次女など)
- 第二順位:配偶者と直系尊属(父、母/祖父、祖母)
- 第三順位:配偶者と兄弟姉妹
というように順番が決まっています。
言い換えると、
- 配偶者は常に法定相続人
- 子どもがいる場合は子ども
- 子どもがおらず父母がいる場合は父母
- 子ども・父母がおらず祖父母がいる場合は、祖父母
となり、孫は法定相続人ではなく、子どもと同時に父母が相続人になることもありません。
【法定相続分とは】
法定相続分とは、相続財産をわける(遺産分割する)目安として民法で定められた相続分を「法定相続分」といいます。
法定相続分は目安なので、「誰がいくら相続しなければならない」という決まりではありません。
遺産分割協議により法定相続分通りに分割しなくてもOKなのです。
ただし、遺産分割協議がまとまらない場合は、法定相続分が目安となります。
【法定相続分一覧】
相続人の構成 |
相続人 | 法定相続分 |
①配偶者と子ども |
配偶者 | 1/2 |
子ども | 1/2 ※ | |
②配偶者と父母(祖父、祖母) |
配偶者 | 2/3 |
父母(祖父、祖母) | 1/3 | |
③配偶者と兄弟姉妹 |
配偶者 | 3/4 |
兄弟姉妹 | 1/4 |
※子どもが複数人いる場合は、子ども間で均等に按分します。(例:2人の場合は1/4ずつ、3人の場合は1/6ずつ)
③それぞれに相続税率を乗じて相続税額を算出する
- 妻:12,600万円 × 40% - 1,700万円 = 3,340円
- 長男:6,300万円 × 30% - 700万円 = 1,190万円
- 長女:6,300万円 × 30% - 700万円 = 1,190万円
【相続税の速算表】
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | ― |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円以上 | 55% | 7,200万円 |
④相続税額を合計し、相続税の総額を算出する
③で算出した相続税額を合計すると、
- 3,340万円 + 1,190万円 × 2人 = 5,720万円
⑤実際に各人が相続した財産の割合で相続税額を按分する
相続財産3億円のうち、1億5千円分を妻、1億円を長男、5千万円を長女で分けた場合、
- 妻:5,720万円 × 1.5億円/3億円 = 2,860万円
- 長男:5,720万円 × 1億円/3億円 = 1,907万円
- 長女:5,720万円 × 5,000万円/3億円 = 953万円
このうち、配偶者の税額軽減(配偶者控除)を適用すると、妻の納税はゼロとなります。
【配偶者控除とは】
亡くなった方の配偶者が相続した遺産のうち、課税対象となるものの額が、次の金額のどちらか多い金額までであれば相続税がかからないという制度です。
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分相当額
まとめ
不動産投資をすると相続税対策になると言われますが、その仕組みは、時価額(売買価格等)と相続税評価額の差を活用した節税対策ができるからです。
多くの金融資産を有する資産家の方は、現金を不動産に換えておくことや借り入れを組み合わせることにより、相続税の節税になるのです。
つまり、不動産投資を行うと節税になると言い換えることができます。
しかし、相続税対策は不動産投資によるメリットの一つにすぎません。少なくとも不動産投資にはリスクがありますので、行き過ぎた節税はNGです。
節税対策ばかりに気を取られ、肝心の不動産投資・アパート経営のリスク対応ができず、相続発生前に資産を手放さなければならないことになってしまっては本末転倒です。
相続税対策とは、資産を目減りさせないようにする目的であるため、アパート経営に失敗して資産を減らすようなことが起きてはいけないのです。
そのためにも、しっかりと安定経営できるように不動産投資を考えるべきなのです。
不動産投資とは、物件を手に入れて終わりではありません。
節税効果があり、安定経営ができる物件選びと、購入後の賃貸経営をしっかりと担うことが大切です。