不動産投資の融資条件で優先すべきは「金利」「金額」「期間」のどれ?
不動産投資で金融機関から融資を受けようとする場合、「金利」「金額」「期間」のうちどの条件に注目するでしょうか。
融資の返済では月々の返済負担額が重要になるため、「金利」「融資額」ばかり注目してしまいますが、「融資期間」の検討も大きなポイントになります。
そこで今回は、金融機関から融資を受けるときに、金利や返済期間が違うと返済額がどう変わるかについて具体例を挙げて紹介するとともに、不動産投資における融資の捉え方について考えてみたいと思います。
不動産投資の融資における返済額はどう捉えるか
不動産投資をするとき多くの方が金融機関から融資を利用することになります。
このとき「毎月の返済額がいくらになるか」は大きな関心事となるでしょう。
単純に考えると、毎月の返済負担は家賃収入を考慮して重くするより軽くしたほうが良いように思えますが、本当でしょうか。まずは、「毎月の返済額が大きい場合」「毎月の返済額が少ない場合」に分けて見ていきます。
毎月の返済額が大きい場合
不動産経営では予期しない空室状態が長期にわたって続いたり、突発的な設備交換や修繕費用が必要になる事態が生じることがあるため、手元に一定のキャッシュフローを確保しておくことが重要です。さらに、今後事業を拡大していくには資金作りも同時に行う必要があります。
ところが、一定額以上のキャッシュフローが確保できていない場合、不意の修繕費用をまかなうことや事業拡大のための資金作りが困難になってしまいます。
融資返済金の負担増はキャッシュフローの確保に直接影響を及ぼすことになります。
たとえば、融資期間を短く設定し毎月の融資返済の負担を大きくし過ぎると、キャッシュフローが圧迫され、現金の蓄積が阻害されてしまう可能性があります。
この視点からすると融資返済の負担は軽いほうが望ましいといえます。
毎月の返済額が少ない場合
それでは、融資返済の負担は軽ければ軽いほど良いのでしょうか。
たとえば、融資期間をかなり長く設定して毎月の融資返済の負担を軽くすることは、最善な方法のように見えますが、次のような弊害も生じることがあります。
毎月の融資返済を軽くし、返済期間を長期に設定した場合、融資残債の減り方が遅くなります。つまり不動産を将来売却する時に、その売却額で融資残債を完済できない可能性が出てきます。
建物は老朽化の進行により、常に資産価値が減り続けています。
そのため、一般的には資産価値が減っていく以上のスピードで融資を返済していかないと、不動産売却時に融資残債額が売却額を上回ることになりかねません。また、融資期間が長ければ長いほど、返済期間内の利息の支払い総額も多くなります。
したがって、月々の返済負担だけを考えて軽くすることがベストな方法とは言えない場合もあるのです。
金利の違いによる手取り額の差
次に、融資条件の重要ポイントである「金利」が返済額に及ぼす影響についてシミュレーションを行って確認します。
たとえば6,000万円の融資(返済期間15年、元利均等払い)を受けて、部屋数8室、家賃7万円のアパートを取得した場合で、「金利3%のケース」と「2%に減らしたケース」で手取り額を比較してみます。
なお、所得税・住民税はなしと仮定します。
上記の場合、金利を3%から2%に減らすと、年間手取り額が33万8,917円(7万729円−▲26万8,188円)増えることになります。
金利3%の融資では、キャッシュフローがマイナスになってしまうのに対し、金利を2%まで減らすと余裕はさほどありませんが、キャッシュフローをプラスに維持することができました。
金利を1%減らすとメリットが大きいことがわかります。
融資期間の違いによる返済額の差
もう一つ、融資条件の重要ポイントである「融資期間」の違いが返済額に及ぼす影響について確認します。
取得物件の条件は上記と同じで、金利は3%とし、融資期間を「15年の場合」と「20年の場合」で比べてみます。
前のケースと同じ条件ですが、融資期間を15年から20年に変えると、1年当たりの返済額が100万円近く減り、その結果、年間手取り額が97万9,080円増加しました。
返済期間が長すぎると、不動産売却時に融資残債額が売却額を上回ることもありますが、金利を1%下げるよりも5年間返済期間を長くする方が、手取り額を増やす効果は大きくなります。
不動産投資目的や事情に応じた融資条件の考え方
不動産投資における目的の一つに、「継続した家賃収入を確保して安定した豊かな生活を送ること」が挙げられます。
しかし安定した家賃収入の確保と併せて、出口戦略である将来的な売却で不動産を有利に売ることも視野に入れておくことが不動産投資では重要です。
また、不動産投資はオーナーの置かれた投資環境や抱える個々の事情によって、優先する課題や採用する手法が異なってきます。
安定した家賃収入の確保を主な目的とする場合
副業で不動産投資を行う場合の目的として、老後の生活費や資産形成などへの備えがあります。継続した家賃収入の確保が主目的になるため、投資用物件を長く保有することが前提となり、おのずと出口戦略が占めるウェイトは低くなるでしょう。
また、出口戦略を視野に入れていたとしても不動産物件の立地からみて空室が多かったり、老朽化が進んで維持管理費がかさんだりするケースがあります。そのような場合、出口戦略は後回しにして、当面のキャッシュフローを確保することが最優先課題になってきます。
このような場合、毎月の返済負担を減らすため、融資額・金利を抑え、融資期間は長く設定するなどの方法が挙げられます。
早期売却を主な目的とする場合
物件を長く保有せず、有利に売却したいと考える場合は、出口戦略が大きなウェイトを占めることになります。融資額・金利は抑えつつ、物件の早期売却を視野に入れて融資残債を減らすための融資期間は短く設定します。
融資期間が短いため、毎月の返済額は重くなりますが、物件の価値が下がる前に売却することで、売却利益の最大化を図ることができます。
このように不動産投資自体の目的が単一ではないことに加えて、オーナーそれぞれの目的や事情により、その優先課題や投資手法が異なります。
融資を受ける際は、投資目的や個人の事情に応じた適切な条件に設定することが重要となります。
「融資金利」「融資金額」「融資期間」のバランスを図る
後々の返済負担を考えた場合、できるだけ「融資額」が膨らみ過ぎないように神経を使うのが一般的です。また同じく返済負担を軽くするために「金利」に注目する方も多いでしょう。このようにできるだけ返済総額を抑えるために金利が低い融資を検討すること自体は間違いではありません。
しかし、「融資額」や「金利」の検討と同様に、「融資期間」の検討も十分に行うことが不動産投資を成功に導く上で重要です。
上記のシミュレーションでは、融資期間を15年から20年に5年間増やすだけで、年間の手取り額は金利を3%から2%に下げた場合の3倍近くまで増やすことができました。つまり、金利引き下げにこだわるよりも、返済期間の長さに注目した方が効果は大きいのです。
融資期間について十分に検討することは、融資額や金利の検討と同じくらいに大きな意義があります。
もちろん融資額と金利は抑えるに越したことはありません。しかし融資額は、不動産投資の規模や自己資金などの関係で、減らすことは簡単ではありません。
また、金利についてもオーナー側の希望が通る保証はありません。
それに対し、融資期間は物件の築年数(耐用年数による残存期間)や交渉次第で設定期間を調整できる余地が大きい条件となります。不動産投資で融資を受けようとする場合は、「融資額」や「金利」と併せて「融資期間」にも十分に注意を払い、検討材料にすべきでしょう。
迷ったら何を優先すべき?
物件を取得する際の融資条件については、複数の金融機関に融資申し込みをすると異なる条件を提示されることが多々あります。また、理想通りの条件が提示されない場合も多々あります。
しかし理想の条件を求めすぎていては、いつまでたっても不動産投資を実現することができない可能性があります。金融機関から提示された融資条件で収支(キャッシュフロー)が確保できることが大前提ですが、
1.融資額
2.返済期間
3.金利
の順で検討することをお勧めします。
融資額
不動産投資を実現するためには「自己資金+金融機関からの融資」で物件取得に必要な資金を確保しなければなりません。
融資額は、あなたの属性および物件の規模・築年数・担保評価・収益性などにより評価されるため、どんなに物件が良くても、あなた自身の属性により融資額が希望通りにならない可能性があります。
場合により、金融機関は融資を断ってくる可能性があります。
融資額が少なければ準備した自己資金の額では取得できないため、物件規模を見直すことや時間をかけて自己資金を貯めるなどの方向転換が必要です。
また、融資額は一度借りてしまったら後で増やすことが困難です。
一方で、多めに融資を受けても後で繰り上げ返済をすることが可能です。
そのため、想定した自己資金をすべて使うのではなく、余力ある資金計画での不動産投資をお勧めします。修繕などの突発的な資金需要があった場合などのリスク対応にも有効です。
但し、金融機関の不動産市場に対する融資姿勢が慎重になった今、フルローンは期待できません。少なくとも物件価格の20%から30%は準備しておくことをお勧めします。なぜなら、安易に多額の融資を受けて不動産投資が実現できた時とは異なり、緩んでいた審査基準が正常化されたためです。不動産関連の不正融資などを起因に、金融庁が金融機関に対して融資審査の厳格化を求めたことも一因と考えられています。
融資期間
キャッシュフローに一番影響する要素でもあります。そのため、当初は極力長めに返済期間を確保してキャッシュフローを良くしておき、余剰資金を繰り上げ返済して残債を減らしていく方法をお勧めします。
賃貸経営の実績を積み良好なキャッシュフローが維持できていれば、借り換えなどによる返済期間の延長交渉(リスケジュール、略してリスケ)の余地があります。
特に副業で不動産投資を考えている方には、金利が高くても返済期間の長い融資を受けた方がキャッシュフローは良くなるケースがあります。
この返済期間を長くするためには、新築や築浅、鉄筋コンクリート造など耐用年数の長い物件、劣化対策等級3の木造アパートなどが有利です。
また、築古物件でも返済期間20年などの融資が受けられる金融機関もあるため、まずは返済期間に注目した金融機関選びもお勧めです。
金利
低金利で融資をする金融機関は都市銀行が一番です。しかし融資を受けるハードルが高いため、融資の審査が厳しくなった今、理想的な金利で融資を受けることが一般的には難しい可能性があります。
そのため、まずは賃貸経営の実績を積むことをお勧めします。実績を積むことで金利引き下げ交渉や、融資残債が少なくなれば低金利での借り換えという選択肢も考えられるからです。
まとめ
不動産投資では、オーナーそれぞれの目的や事情が異なることから、投資目的や個人的な事情に応じた融資条件を適切に選択して組んでいくことが重要です。
融資を受けるときは調整余地の少ない「融資額」や「金利」にばかり注目せず、取得物件の築年数や交渉次第で変わる「融資期間」を検討しましょう。
設定次第によっては返済負担を大きく減らすことも可能となります。
物件取得時点では、なかなか理想の融資条件で融資を受けることができない場合があります。
しかし、そのことで不動産投資を諦めるのではなく、キャッシュフローが維持できるのであれば、まずは不動産投資での賃貸経営の実績を積み、数年後から金利引き下げや繰り上げ返済、返済期間の延長などの交渉や借り換えを検討しましょう。
不動産投資で融資を検討している方は、ぜひこの記事をヒントに最もご自身に合った融資条件を検討してみてください。